高島藩主諏訪家伝来 竹取物語詞書略訳 2001.02.20 諏訪市博物館 上巻詞書1略訳  むかし、「さるきのみやつこ」という名前の竹取のおじいさんがいた。野山に入って竹を取っていると、光る竹を見つけ、その中に十センチくらいの人がかわいい姿でいた。「私の子になるべき人なのだろう。」と家に持って帰り、おばあさんに育てさせた。大変小さいので、箱に入れて育てた。この後、竹取は、竹を取るごとに、黄金のある竹を見つけることが重なって、豊かになった。  この子は三ヶ月ほどで立派な大人になった。美しさは世界一で、家の中は光が満ちていた。名前は、「なよ竹のかぐやひめ」と付けた。 (上巻 絵1) 上巻詞書2略訳  世界中の男は、身分の高い人も低い人も、「なんとかして、このかぐや姫を手に入れたい、見たい。」と心が落ち着かない。姫を見たいばがりに、夜は寝もせず、のぞき垣間見ていた。その時から、「よばい」という。  かぐや姫の家の辺りをうろつく貴族は多かったが、「意味がない。」と来なくなった人も多かった。その中でも、なお言い寄ってきたのは、色好みといわれている、いしつくりの御子(みこ)、くらもちの御子、あべのみむらじ、大伴(おおとも)のみゆき、いそのかみのもろたりの五人である。ちょっと美しい人だと聞いたら自分のものにしたい人たちだから、かぐや姫に逢いたくて、物も食べず家のあたりにたたずんでいる。寒い冬も、暑い夏も通いつづけた。  この様子を見たおじいさんは、「どうして結婚しないのか。一人一人に逢ってみたらどうか。」というが、かぐや姫は、「愛情の深さも判らないでお逢いして、その気になってしまったら後悔することになるから、五人の内で、私がみたい物を見せてくれた人を愛情が深いとしてお逢いいたしましょう。そこにいる人たちにそう言ってください。」という。  おじいさんは、男たちにそう言った。 (上巻絵2) 上巻詞書3略訳  かぐや姫は、「いしつくりの御子は、仏の御石の鉢を取ってきてください。くらもちの御子は、蓬莱(ほうらい)という山にある銀の根、金の茎、玉を実とする木の枝を折ってきてください。今一人は、もろこしにある火ねずみの皮ぎぬをください。大伴の大納言は、龍の首にある五色に光る玉を取ってきてください。いそのかみの中納言は、つばくらめの持つ子安貝を取ってきてください。」という。おじいさんは男たちに伝えた。  かぐや姫に逢わずにはいられないと、「インドにあるものを持ってこなければ。」と、いしつくりの御子は、いろいろ考えて、かぐや姫の元には、「インドへ行く。」と言っておいて、三年ばかり経ってから、大和国十市郡にある山寺にある、墨の付いた鉢を錦の袋に入れて、かぐや姫の家に持ってきて見せた。かぐや姫が、あやしがって見ると、蛍ほどの光もないので、鉢を門に捨てた。それ以降、あつかましいことを「恥を捨てる」という。 (上巻絵3) 上巻詞書4略訳  くらもちの御子は、計略に長けていて、朝廷には「筑紫国に湯治に行く。」と言い、かぐや姫の家には「玉の枝を取りに行く。」と言い、出発したと人には見せかけて、鍛冶職人を六人雇い、こっそりと玉の枝を作った。それを長櫃に入れて、旅の姿でかぐや姫の家へ持っていった。  おじいさんは、「蓬莱の玉の枝を持ってきたぞ。この御子に逢いなさい。」というが、かぐや姫にはその気がない。おじいさんが、御子に「どこにあったのですか。」と尋ねると、船に乗って行方もわからず漂い、海に落ちそうになった、知らない国にたどり着いた、鬼のようなものに食われそうになったなどと話し、ようやく見つけた蓬莱山は照り輝くところで、この木の枝があったのだと言う。 (上巻 絵4) 上巻詞書5略訳  すると、六人の男たちが、手紙を持って竹取の家へやってきて、「千日あまりかけて、玉の木を作ったが、まだ手当をもらっていない。」と訴えた。御子は大変動揺している。「かぐや姫が欲しがっていると聞いていましたので、この家からお手当をいただきたい。」と手紙に書いてあった。  かぐや姫は笑い、「本物かと思った。作り物なら早く返して。」と言い、歌とともに玉の枝も返した。 (上巻 絵5) 上巻詞書6略訳  御子は、いたたまれず、日が暮れるとすぐに帰った。かぐや姫は、職人たちにたくさん手当をあげた。職人たちは、「思い通りになった。」と言いながら帰るが、帰り道でくらもちの御子にお仕置きされ、もらったものもみんな置いて、逃げていった。 中巻詞書1略訳  くらもちの御子は、恥ずかしさのあまり、一人で深い山へ行き、死んでしまったのだろうか見つけることができなかった。これより、魂がぬけた状態を「たまさかる」と言う。  左大臣あべのみむらじは、お金持ちで家も広い。中国の「おうけい」という人のもとに、小野のふさもりという人を遣わし、火ねずみの皮衣を買ってもらうよう、手紙と金を渡した。おうけいの返事を持参した中国船が帰ってきた。それには、「火ねずみの皮衣をやっと手に入れました。これは、簡単に手に入るものではございません。」とある。 (中巻 絵1) 中巻詞書2略訳  おうけいの手紙には、「むかしインドの僧がこの国に持ってきたものが西の山寺にあり、それを買い求めたが、お金が足りなかったので、たてかえておいた。五十両送ってくれ。」とある。「わずかな金ではないか。うれしいことだ。」と言い、中国の方へ向かい拝んだ。  このかわぎぬは、瑠璃色の箱に入っており、大変美しいものである。「かぐや姫も気に入るだろうな。今夜はかぐや姫の家に泊まれるかな。」と思って、歌を添えてかぐや姫の家へ持ってきた。かぐや姫は、これを見て、「うつくしい皮だこと。本物かもしれない。」と思ったが、「この皮衣は火に焼けないはずだから焼いてみましょう。」と言う。左大臣は、「この皮はやっと買い求めたものです。」 (中巻 絵2) 中巻詞書3略訳  「疑いのないものだから早く焼いてみましょう。」と答えたので、焼いてみると、めらめらと焼けてしまった。かぐや姫は喜んだ。これより、あっけないことを「あえなし」と言う。  大伴のみゆきの大納言は、あらゆる人々を集めて言った。「龍の首にある五色に光る玉を取ってきた人には願いをかなえよう。インドや中国のものではない、龍はこの国にいるものなのだからたやすいだろう。」と、道中に必要な銭や着物を与えて、「玉を取ってくるまで帰ってくるな。」と言うが、男たちはもらう物だけもらって出掛ける者はいない。  大納言は、「かぐや姫が来るのに、これでは醜いなあ。」と、家に漆を塗り、蒔絵をし、屋根は五色の糸で葺いて、立派に改修した。奥さんとも別れた。しばらくしても、だれも戻ってこないので、心配して難波の海へ行き、船出した人がいないことを知ると、自ら海へ出るが、大嵐に遭う。舵取りも「こんなにひどいのは初めてだ。」と泣く。 (中巻 絵3) 中巻詞書4略訳  舵取りは言った。「風が吹き、波が激しいのは、龍を殺そうとしているからだ。突風も龍が吹かせているのだ。」大納言が、「神様、もう龍を殺そうとはしません。」と、千回ほど言うと、ようやく雷が止んだ。三、四日経ち岸に近づくとそこは明石の浜だった。大納言は起きあがることもできず、重い風邪を患っている人のようで、腹はふくれ、目はすももを二つつけたように腫れていた。  うめきながら担われて家に帰ったら、どこで聞いたのか、派遣した者たちが来ていて、「龍の首の玉を取ることができなかったので参上できなかった。」と言う。大納言は、「よくぞ取って来なかった。龍は雷と同類で、それを取ろうとしたら、多くの人が被害を受けた。かぐやひめという大盗人めが人を殺そうとしているのだ。もうあの家には近づかない。お前たちも近づくなよ。」と言う。別れた奥さんは大笑いした。糸を葺かせた屋根は、鳶やからすがくわえていった。世の中の人は「大納言は目にすもものような玉を付けて帰ってきた。」と言ったので、割に合わないことを「あなたえがた」と言い始める。  中納言いそのかみのまろたりは、「つばめが巣をかけたら報告しなさい。」と使いの者たちに言う。ある人が、「つばめは、大炊寮の飯炊き部屋に巣をかける。そこに櫓を組んで様子を窺えば、つばめは子を産み、子安貝を取ることができるだろう。」というのを聞いて、二十人ほど遣わし、たびたび様子を見に来た。つばめは、人がたくさんいるのを恐れて近づかない。くらつ丸という翁が「一人を籠に乗せて、尾を上げてつばめが子を産もうとする間に、綱を引っ張り上げさせて、子安貝をとればよい。」と言う。つばめが巣を作り、尾を上げているので、人を登らせるが、何もないと言う。「探すのが下手だ。」と、中納言自らが登り、巣を探ると、平らなものを見つけた。「今だ。」と言って、籠を下ろそうとしたら綱が切れ、あおむけに落ちてしまった。 (中巻 絵4) 中巻詞書5略訳  皆が寄って介抱する。中納言は、「腰は動かないけれど、子安貝は取ったぞ。」と喜ぶが、紙燭の灯りで見てみると、それはつばめの糞であった。それを見て「ああ、かいのないこと。」と言ったときから、希望通りにならないことを「かいなし」と言う。  中納言は、恥ずかしさで、ますます病んだ。かぐや姫がお見舞いに歌を詠んだが、返歌をして死んでしまった。かぐや姫は少し気の毒だと思った。それより、少しうれしいことを「かいあり」という。  さて、かぐや姫が美しいことを御門(みかど)が聞いて、「多くの男を惑わしているかぐや姫はどれほどの女か見て参れ。」と使いをやる。 (中巻 絵5) 中巻詞書6略訳  かぐや姫は、「御門のいうことなんて畏れ多いとも思わない。」と言い、勅使に会おうとしない。「必ず見てこいと言われたのに、これでは帰れない。」と勅使は言う。 下巻詞書1略訳  「国王の言うことを聞かないなんて、訳のわからないことをおっしゃるのではない。」と勅使に言われ、かぐや姫はますます頑なに、「国王の言うことに背いているなら早く殺してください。」と言う。御門はこれを聞いたが、なおかぐや姫のことを思い続け、おじいさんに、「もしかぐや姫をよこしたら、お前に官位をさずけよう。」と言う。おじいさんは大変喜び、かぐや姫に「それでもまだお仕えなさらないのか。」と言う。 (下巻 絵1) 下巻詞書2略訳  かぐや姫は、「宮仕えはしないと思っているのに、あまり強いるなら、死んでしまおうと思います。」と言う。おじいさんは、「死ぬなんてとんでもない。御門に断ってくる。」と言う。  御門は、「竹取の家は山の近くだから、狩りに行くふりをして見てしまおうか。」と言い、急に日を決めて狩りに出掛け、かぐや姫の家に入ると、光が満ちて、美しい人がいる。これがかぐや姫だろうと思って、「逃がさないよ。」と袖をつかんだが、かぐや姫は突然影になってしまった。御門が、「連れてはいかないから、元の姿になってくれ。」と言うと、かぐや姫はもとの姿に戻った。御門は連れて帰りたいのだけれど、歌を詠み交わして、惜しみながら帰った。 (下巻 絵2) 下巻詞書3略訳  御門は、まわりにいる人を見ても、かぐや姫に勝る者はいないと、ご夫人方の元にも出かけない。かぐや姫だけが心にかかり、手紙を書く。かぐや姫の返事も感じが良く、こうして心を慰め合っていた。  三年ほど経った春の初めから、かぐや姫が月を見ては嘆くことが続いた。八月十五日が近づくと、かぐや姫はたいそう激しく泣いた。どうしたのか聞くと、「私は月の都の人なのです。前世の因縁で、この国にやってきたのですが、この十五日に迎えが来るのです。」と言う。おじいさんも、「ここまで大きくした我が子を迎えに来るなんて許せない。」と泣き、ひげも白く、腰もかがまり、急に老けてしまった。御門がこの事を聞き、十五日に兵士二千人を送り込み、竹取の家を守らせた。 (下巻 絵3) 下巻詞書4略訳  かぐや姫は、「おじいさんやおばあさんのお世話もしないでお別れしなければなりません。あの都の人は、大変美しく、年をとらず、心配事もないのです。そんな所へいくことはうれしくもありません。」と言い、おじいさんは「胸が痛いことをおっしゃるな。」と言う。  そのうち、宵が過ぎ、十二時ごろになると、昼のように明るくなり、大空より人が雲に乗って下りてきた。兵士たちは戦おうとする心もなくなった。天人たちの衣装は大変きれいで、飛ぶ車を持ってきている。天人の一人が、おじいさんを呼び出し、「少しいいことをしたので、手助けにと思ってしばしかぐや姫を下したのに、金持ちになってすっかり変わってしまったな。かぐや姫は罪を犯したので、こうして身分の低い翁のもとにしばらくいたのだ。償いをはたしたので迎えに来た。かぐや姫を返せ。」と言う。「かぐや姫は病気で出て来られない。」とおじいさんが言うと、戸が全て開き、かぐや姫が外に出てきた。かぐや姫は、「手紙と着物を置いていくから形見と思ってください。月の出る夜は思い出してください。」と言う。天人が天の羽衣を着せようとすると、「ちょっと待って。」と言って御門に手紙を書く。 (下巻 絵4) 下巻詞書5略訳  歌と不死の薬を、御門に届けさせる。かぐや姫は天人に天の羽衣を着せられると、おじいさんをいとおしいと思っていた気持ちが消え、車に乗って、百人ほどの天人と昇っていった。おじいさんとおばあさんは、血の涙を流したが、どうにもならない。 (下巻 絵5) 下巻詞書6略訳  御門は、すっかり気を落として、病に伏した。手紙と薬の壺を受け取った御門は、大臣たちを呼んで、「どの山が天に近いか。」と尋ねる。ある人が「駿河の国にある山がこの都にも天にも近い。」と言う。御門は、不死の薬と手紙と壺を持たせ、駿河の国にある山で燃やすよう指示する。兵士たちが大勢で山に登って以来、その山を「ふじの山」という。その焼いた煙は今もって雲の中へ立ち上っていると言い伝えている。